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『絶対レベル』 と 『相対レベル』 |
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財布の中には 1000円しかない、というときの『1000』と、昨日より手持ちが 1000円減った、というときの『1000』では意味が異なります。財布の中身の「1000」は、中身の金額そのもの、つまり『絶対レベル』を表わしていますが、昨日と比べた「1000」のほうは、財布の中に実際にいくら入っているかはわかりません。絶対レベルはわからないが、昨日に比べて『相対』的に1000減ったということです。相対レベルを表わすには対象が必要です。つまり「〜に比べて増えた、減った」という、比較の相手(規準)がなければなりません。
オーディオ信号の周波数特性を測定するときには、一般的に 1kHzのレベルを基準とします。つまり 1kHzのレベルを +4dBmなど基準のレベルに合わせておいて、それに比べて他の周波数のレベルが何dB高いか・低いかと考えます。もし 1kHzと 2kHzのレベルが同じなら、2kHzは 0dBである、ということになりますし、10kHzでレベルが半分になっていたら、10kHzは −6dBということになります。この場合の 0dB、-6dBは『相対レベル』です。
ところで、スタジオなどでは機器の受け渡しの規準レベルが『+4dBm』となっている場合がほとんどです(通称「プラヨン」といいます)。つまり +4dBmの信号を入れると、レベル・メーターが規準の 0dB(VUメーターなら 0VU)を指すようになっています。ややこしくなってきました。この +4dBmというのは何でしょうか?
実は dBの後ろに m のような英語の添え字が付くと、相対レベルではなく絶対レベルを表わします。添え字によって規準が異なり、いくつか種類があります。
『dBm』 は、『 600Ωの負荷に対して 1mWを生じる電圧を 0dB(規準)とする』 ことになっています。この電圧は +0.775vrmsですので、0dBm = +0.775vrmsという意味です。では +4dBmは何vになるか計算してみてください。約1.228vになりましたか?
このほかには負荷を 600Ωと限らず、単純に +0.775vrmsを規準とした dBu / dBv [ 0dBu = 0dBv = +0.775vrms] という単位もあります。昔の放送機器などは入出力のインピーダンスが 600Ωだったので dBmという単位が有効だったのですが、今は 600Ωの機器が少なくなってきました。ですから慣習上「+4dBm」と言っていても、実際は「+4dBu / +4dBv」の意味の場合が多いのですが、電圧値は同じなのであまり問題になりません。
他には 1vrmsを規準にした dBV [ 0dBV=1vrms ]などがありますが、スタジオではあまり一般的ではありません。
ちなみに、dBvと dBV は大文字・小文字が違うだけで数値が大きく異なります。間違いやすいので、特にアメリカでは dBv は使わず、dBu が一般的です。
単位 |
基準 |
コメント |
dBm |
600Ωに対して1mWを生じる電圧値(=+0.775v*)を基準( 0dBm )とする |
dBm の m は mW(ミリワット)の mです。負荷インピーダンスが 600Ωのときのみ使います |
dBv、 dBu |
+0.775v*を基準 ( 0dBv, 0dBu ) とする |
負荷インピーダンスに関わり無く、+0.775vを基準にします。数値は dBmと同じですが、ロー出しハイ受けの機器ではこちらが”正しい単位”になり、現在ではこちらが一般的です。 ちなみに dBv と dBV は大文字・小文字の違いでまったく違う値になります。そのため混乱を避ける意味でもアメリカでは dBu が一般的です |
dBV、 dBs |
+1v*を基準 ( 0dBV, 0dBs )とする |
+1vを基準にした単位は、0VU = +4dBm が一般的なオーディオの世界では今のところまだそれほど一般的ではありません |
*電圧値はすべてrms(実効値)です。
それよりなぜ絶対値をわざわざこのようなデシベル表示で表わすのでしょうか? さきほどの周波数特性のところでは、+4dBmの 1kHzの信号を 0dB(規準)として他の周波数を測定することになります。従って 1kHzとのレベル差が 0dB だった 2kHz の絶対レベルは +4dBm とわかります。
それでは 1kHz に対して -6dB だった 10kHz の絶対レベルは何dBmでしょう? +4dBm が +0.775v で、その −6dB だから 0.775 ÷ 2 で・・・と計算する必要はありません。『+4 - 6 = -2 [dBm]』 で済んでしまいます。
-2dBm が何vかを換算する必要というのは、実際にそれ程ありません。
もうひとつ、オーディオ機器には、パワー・アンプのような電力を扱う機器から、マイクロフォンのように微小電圧の機器までさまざまあります。ちなみにマイクロフォンの規準レベルは −60dBu 程度です。これを +4dBm のいわゆるライン・レベルまで増幅するマイク・アンプ(ヘッド・アンプ)のゲインは +64dB ということになります。これをリニアで(つまり電圧値で)表示すると、マイクの規準レベルが +0.000775v で、ヘッド・アンプのゲインは約 1584 倍、となります。どちらがややこしいですか?
このように便利なdBですが、英小文字ひとつ付ける、付けないでまったく意味が変わってしまうということをよく理解しておいてください。
たとえば同じ測定結果でも、ノイズのレベルは −90dBu で基準信号レベルが 0dBu なら、S/Nは 90dB です。もし信号レベルが +4dBu なら、S/Nは 94dBとなります。
また、レベルについての会話では、絶対値の dB を言っているのか相対値の dB のことなのかややこしい場合があります。「 3デシ ( 3dB )上げてプラヨン ( +4dBu ) にしてください」とか 「マイナス 10 ( -10dBu ) に 2 デシ ( 2 dB ) 足りないね」 というのは、慣れれば何ということもないのですが、初めのうちは何を言っているのかわからないかもしれません。絶対値にはたいてい符号(+/−)が付きますから、よく聞けば区別がつきます。
(社内セミナー資料より) |