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■ コラム目次
AES3ID-1995 / SMPTE-276M
デジタル・オーディオ信号の伝送
デシベルの話
バランス/アンバランスの話
インピーダンスの話
オーディオ・トランスの話
続:オーディオ・トランスの話

コラム: 続・オーディオ・トランスの話

このコラムは、社内セミナー用の原稿を加筆・修正したものであり、著作権は当社にあります。著作権を侵害するような無断転載などはご遠慮ください。またここに記述された内容に起因する一切の事象に対して、当社は責任を負うものではありません。内容に関するご質問やお問い合わせなどにはお答え致しかねますのでご了承ください。


オーディオ・トランスは、最近はほとんど使われなくなったこともあって、実務の参考になるような書籍もほとんどありません。またその取扱いについても知っている人には当たり前のことでも、知らない人にはなかなか難しいものです。

ここではオーディオ・トランスの巻線比やインピーダンス比、またアイソレーションの取りかたなど実践的なお話を書いておきます。


 マイク・トランスの増幅率とインピーダンスの計算

LUNDAHL の代表的なマイク・トランス LL1538 を例にとります。LL1538 の巻線比 ( Turns Ratio ) は 1+1 : 5 と表示されています。これは 1次側に同じ巻線数のコイルがふたつあり、2次側にはその 5倍の巻線数のコイルがひとつある、という意味です。(丸数字は巻線比)

ちなみに中央の縦線はコアを表し、破線は静電シールドを表しています。静電シールドはマイク・トランスのように扱う信号レベルの低いトランスに使われ、通常はグラウンドに接続して使います。

LL1538 の使い方としては、1次側のふたつのコイルをシリース(直列)に接続して、巻線比 2 : 5 (= 1 : 2.5 )として使うか、パラ(並列)に接続して 1 : 5 として使います。マイク・アンプの初段に使う場合はゲインが高いほうが後段の設計が楽なので、1 : 5 で使う場合が多いでしょう。

 

トランスの増幅率は巻線比と同じです。つまり巻線比 1 : 5 のトランスの増幅率は 5倍です。これをデジベルに直すと約 +14dBになります ( 20log5 ) 。LL1538 より増幅率が高い LL1578 の場合は、1+1 : 10 という巻線比なので、 1次側巻線をパラレルにすればゲインは約 +20dBになります。LL1538 とはピン・コンパチブルでケース・サイズも同じなので、もう少しトランスだけでゲインを稼ぎたいという場合には差し替えて使うことができます。

トランスのインピーダンス比は巻線比の 2乗です。つまり LL1538 を 1 : 5 接続した時のインピーダンス比は 1 : 25 です。LUNDAHL のデータ・シートにはインピーダンス値の記載がありませんが、 200Ω : 5kΩとなっています。インピーダンス値そのものはあまり深く考える必要はありません。メーカーがデータ・シートにトランスの測定データを記載した時の測定条件、程度の意味です。実際の回路で使用するときに 2次側を 5kΩで終端 "しなくてはならない" ということではありません。そもそもそれではマイクの負荷インピーダンスが 200Ωになって、使い勝手が悪すぎます(マイクロフォンの出力インピーダンスの 5倍以上は確保したいところです)。

インピーダンス比が 1 : 25 なので、例えばトランスの 2次側を 47kΩあたりで終端したとすると、1次側のインピーダンスはその 1/25、おおよそ 2kΩ前後になる、ということがわかります。あたり、とかおおよそ、とかずいぶん大雑把な感じですが、実際にはトランスの挿入損失やら個別のバラツキなどがあるのでピッタリと計算値どおりにはいきません。この程度わかれば十分です。

トランスのデータ・シートに、巻線比ではなくインピーダンス値の記載しかない場合は、インピーダンス比からトランスの増幅率(つまり巻線比)を計算します。例えば 200Ω: 5kΩのトランスだったら、5k ÷ 200 のルート(平方根)をとってデシベルに直してみましょう。約 +14dBになりましたか?

ちなみに LL1538 の 1次側をパラレル(並列)接続して、巻線比 1 : 2.5 で使った場合、2次側を 5kΩで終端した時に 1次側に現れるインピーダンスは?答えは 800Ωです。インピーダンス比は巻線比の 2 乗に等しい、ということを思い出してください。巻線比が半分になったら、インピーダンス比は 4分の 1です。



 マイク・パッド

マイク・トランスは増幅機能がある分、最大入力レベルが低いのが一般的です。 LL1538 の場合は歪率 1%(目に見えて波形が潰れ始めるあたり)の 入力信号レベルは +10dBU/50Hzです。 トランスは低域から飽和し始めるので、測定信号には 50Hzという低い周波数を使います。1kHzならもうちょっと耐えられるはずです。

生音の収録などで、音源の音量が大きく、トランスの許容入力レベルを超えてしまいそうなときは、トランスの前に抵抗器によるパッド (減衰器)を入れます(マイクロフォンの許容入力は意外と大きいので、大抵の場合、トランスが先に飽和します)。 パッドは減衰量の計算だけでなく、入れた時と入れない時でマイクから見た負荷インピーダンスが変わらないように抵抗値を選びます。そうしないと特にダイナミック・マイクでは負荷インピーダンスが変わって音質が変わる可能性があります。

 

図は一般的な R1、R2、R3 によるパッド ( R1 = R2 ) ですが、R3 はトランスの 入力インピーダンスと並列になるので、その合成抵抗値を Rx と考えます。 なので減衰量は Rx ÷ (R1 + R2 + Rx)、入力インピーダンスは R1 + R2 + Rx です。減衰量を -20dB、トランスの入力インピーダンスを 2kΩとすると、 E24系列の抵抗値に当てはめて R1 = R2 = 910Ω、R3 = 220Ωあたりでしょうか。

パッド・スイッチを入れた実用回路はこのようになります。 スイッチがOFFの状態ではR1とR2はスイッチの接点でショート状態になり、R3はフローティングになります。 スイッチをONにすると上の回路と同じ接続になります。スイッチは金メッキ接点など、微少電流用のものを使いましょう。



 ダイレクト・ボックス用として使う

LUNDAHL には LL1530 という、 ダイレクト・ボックス用*と謳ったトランスがあります。 ダイレクト・ボックス用と言っても素性は普通のマイク・トランスです。巻線比は 1 + 1 : 3.5 + 3.5。1次側、2次側とも複巻です。 1次側をパラレル、2次側をシリースにすると巻線比 1 : 7 になるので、インピーダンス比は 1 : 49 です。

ダイレクト・ボックス用として使う場合は、信号の増幅ではなく高い入力インピーダンスを求められるので、1次側と 2次側を逆に使います。 つまりいつもの 2次側を入力に、1次側を出力にします。この時点で、インピーダンス比は 49 : 1 です。


ここで出力が一般的なマイク・アンプの入力インピーダンス 2kΩで終端されたとすると、入力側のインピーダンスは計算上 49倍の約 100kΩという高インピーダンスになります。ただし(当然ですが)ゲインは約 17dB 下がるので、それを含めてマイク・アンプで増幅して やることになります。
LL1530を使ったダイレクト・ボックスは、アメリカ製のそれによくある ず太いサウンドとは対極の、非常に繊細で肌理の細かいヨーロピアン・サウンドを醸し出してくれます。

*ダイレクト・ボックスとは エレキ・ギターのような出力インピーダンスの高い楽器の出力を、 ミキシング・コンソールまで延々とシールド線を引っ張って接続するのは音質的によくありません。 そのためにギターのすぐ近くで高いインピーダンスで一度信号を受け、それを低いインピーダンスに変換して、バランス(平衡)伝送で コンソールに送ります。

このインピーダンス変換器のことをダイレクト・ボックス(ダイレクト・インジェクション・ボックス)と呼びます。 つまりギター・アンプの音をマイクで拾うのではなく、ギターの出力を直接コンソールに入力する、という意味です。 変換方式はトランスを使ったパッシブ型やFETプリアンプを使ったアクティブ型など様々な種類があります。



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 ライン・トランス

マイクロフォンのような微少信号を増幅する目的ではなく、ライン・レベルの信号を扱うトランスを総称してライン・トランスと呼びます。 ライン・トランスはバランス−アンバランス変換、グラウンド・アイソレーション、インピーダンス・マッチング、分岐回路など様々な目的に合わせた 多くの種類があります。

ライン・インプット・トランスは機器の入力部に使われ、バランス伝送されてきた信号を受けて内部回路に送ります。 ライン・アウトプット・トランスは内部回路の出力をバランス伝送路に送り出します。


 グラウンド・アイソレーション

海外製のパワー・アンプを使うと、ブーンというハム・ノイズに悩まされることがあります。多くは海外と日本で商用電源のアースの取り方が違うことが原因で、パワー・アンプとプリ・アンプ(やコンソール)の間で信号線のグラウンドを切り離してやると簡単に解決します。

ただしこの場合、どちらかがアンバランス機器だと信号グラウンドを切り離すわけにいきません。こういう時はライン・トランスを使います。


「グラウンド・アイソレーション用には、ライン・インプット・トランスとライン・アウトプット・トランスのどちらがよいのですか?」というお問い合わせもあります。どちらでも目的は達成できますが、ライン・アウトプット・トランスをお薦めしています。

ライン・アウトプット・トランスは 2次側を延々と引き回されることも考慮されているので、トランスからパワー・アンプまでの距離が多少延びても問題が出ません。




 アンバランス−バランス変換

アンバランス出力の機器をバランス入力のパワー・アンプにつなぎたいのだが、というお問い合わせもよくいただきます。せっかくパワー・アンプの入力がバランスなので、1-3 ピンをショートしてアンバランスにするのは忍びないですね。トランスを使いましょう。

この場合も外来ノイズに弱いアンバランス(不平衡)部分を短く、バランス(平衡)部分が長くなるようにしましょう。ライン・アウトプット・トランスをアンバランス機器の直後に入れることをお薦めしています。接続は以下の通りです。1次側と 2次側でグラウンドが完全にフローティングになっています。

 

もしアンバランス機器の出力レベルが、相手のパワー・アンプに比べて著しく低いようでしたら、 1 : 1 のライン・トランスではなくマイク・トランスで昇圧してやるという方法もあります。

マイク・トランスは最大入力レベルは低いのですが、たとえば基準出力レベルが -20dBu あたりのコンシューマ機器が最大で +10dBuも出せるとも思えないので、特に問題はないでしょう。むしろ SN 比が向上する、プレゼンス感など音質が向上するといったメリットも大きいものです。実際に LL1538 の音質を活かしてこうした用途にお使いのユーザーもいらっしゃいます。

 

ただしこの場合、アンバランス機器から見た負荷インピーダンスが、パワー・アンプの入力インピーダンスより下がってしまいますので注意が必要です。

LL1538 を 1 : 2.5 接続で使った場合、パワー・アンプの入力インピーダンスが 50kΩでもアンバランス機器の負荷インピーダンスは 8kΩになります。もし『負荷インピーダンス 10kΩ以上』という機器の場合はオーバー・ロードになってしまいます。アンバランス機器のドライブ能力に注意しましょう。



   LUNDAHLのライン・トランスにインピーダンス表示がない理由

LUNDAHL のライン・トランスのインピーダンスは何Ωですか?」というご質問を受けることがあります。一般的にライン・トランスは巻線比が同じ 1 : 1 であっても 600Ω : 600Ω、とか 10kΩ : 10kΩ などとインピーダンス指定があります。しかし LUNDAHL ではデータ・シートにインピーダンスの記載がありません。

それでは逆に、なぜ 600Ω用や 10kΩ用があるのでしょう? 下の矩形波応答波形を見てください。これは昔からある国産の 600Ω用ライン・トランスの応答波形です。測定器の入力インピーダンスを 600Ω で終端した場合(左)はまずまずの矩形波応答を見せていますが、ハイ受け( 10kΩ )にしてみると(右)、盛大にリンギングが現れます。線路インピーダンスに合わせたコイルの巻き方をしているので、設計と異なるインピーダンスでは実力を発揮できないというところでしょうか。

 
 
BTS 600Ω   BTS 10kΩ

次は LUNDAHLLL1524 というライン・アウト・トランスです。600Ω 負荷でも 10kΩ 負荷でも波形にほとんど違いが見られません。LL1524 に限らず、LUNDAHL のライン・トランスはみな同じです。

 
LL1524 600Ω LL1524 10kΩ

LUNDAHL トランスは伝送ラインのインピーダンスに関わりなくお使いいただけるため、データ・シートにはインピーダンス値の 記載がない、ということでしょう。

ついでといってはなんですが、この LL1524 は優れた音質だけではなく、 48mm(w) x 34mm(d) x 22mm(h) というコンパクト・サイズにもかかわらず、最大出力レベル +24dBU/30Hz という高レベルを誇ります。 LUNDAHL トランスは、一般的によく使われる(コイルを巻くための)ボビンを使用しない、独自の『ボビンレス構造』なので、 コンパクトなサイズながら大型トランス並みの許容レベルがあるのです。

長い間いろいろなトランスを扱ってきましたが、こんなすごいトランスは初めてです。



(社内セミナー資料より)


   LL1524EVA について

「 LL1524 を使ってみたいのだが、手軽な評価基板はありませんか?」というお客様からのご要望にお応えして、 『 LL1524 評価基板セット・LL1524EVA 』 を作ってみました。

LL1524と評価用プリント基板のセット販売です。プリント・パターンは 1 次側、2 次側の複巻線をそれぞれシリーズ(直列)接続してあり、グラウンド・アイソレーション・スイッチ用のパターンもあります。

 回路図PDF 

この基板を使えば、1 次側、2 次側にコネクタを配線し、必要があればグラウンド・リフト・スイッチを配線すれば手軽にトランス・ボックスが製作できます。バランス−アンバランス変換ユニットも容易に実現できますので、ぜひ LL1524 の優れた音質と特性を体感してください。

トランスとプリント基板のセットなので半田付け作業は必要になりますが、細かい半田付けではありませんから難しい作業ではありません。唯一、難関といえばケースの穴あけ加工でしょうか? ケースはお好みのものをご用意ください。

評価用ということでプリント基板の価格を抑えてありますが、あくまで評価用なので販売はお一人様 2 セットまでとさせていただいています。またプリント基板のみの販売もできません。悪しからずご了承ください。

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