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■ コラム目次
AES3ID-1995 / SMPTE-276M
デジタル・オーディオ信号の伝送
デシベルの話
バランス/アンバランスの話
インピーダンスの話
オーディオ・トランスの話
続:オーディオ・トランスの話

コラム: AES3ID-1995 / SMPTE-276M

このコラムは、社内セミナー用の原稿を加筆・修正したものであり、著作権は当社にあります。著作権を侵害するような無断転載などはご遠慮ください。またここに記述された内容に起因する一切の事象に対して、当社は責任を負うものではありません。内容に関するご質問やお問い合わせなどにはお答え致しかねますのでご了承ください。

 デジタル・オーディオ・インターフェース規格の変遷


プロ用デジタル・オーディオのインターフェース規格は、1981年に AES のワーキング・グループが検討を開始し、1985年に AESEBU がほぼ同時に 『AES3-1985』『EBU Tech.3250-E』 として制定しました。このふたつは入出力部にトランスを使うかどうか以外はほぼ同じ内容なので、俗に 『AES/EBU』 と呼ばれていますが、実際にそういう正式名称の規格があるわけではありません。

『AES/EBU』で規定されているデジタル・オーディオ・インターフェースは、最大量子化ビット数 24bitのステレオ・オーディオ信号に制御ビットなどを加えたものですが、これはあくまで 『業務用』 の規格であることに注意しなくてはなりません。

デジタル・オーディオ・インターフェース規格としては以下のようなものが制定されていますが、現在では廃版になっているものもありますので注意が必要です。

AES3-1985 (ANSI S4.40-1985), "AES Recommendation Practice for Digital Audio Engineering Serial Transmission Format for Linearly Represented Digital Audio Data"
AES の定めたオリジナル規格。

AES3-1992 (ANSI S4.40-1992), "AES Recommendation Practice for Digital Audio Engineering Serial Transmission Format for Two-Channel Linearly Represented Digital Audio Data"
改訂版。現在の規格はこれに準拠している。

EBU Tech.3250-E, "Specification of the Digital Audio Interface"
EBUの定めた規格。AES3-1985 とほとんど同じだが機器の入出力にトランスが必須。

CCIR Rec.647, "A Digital Audio Interface for Broadcast Studios"
放送局用途に CCIR が定めた規格。

Publication IEC-958, "Digital Audio Interface"
IEC が定めた国際規格。BROADCAST(業務用)とCONSUMER(民生用)がある。

EIAJ CP-340, "デジタルオーディオインターフェース"
EIAJ(日本電子工業会) が定めた日本国内規格。TYPE-T(業務用)と TYPE-U(民生用)がある。

EIAJ CP-1201, "デジタルオーディオインターフェース"
CP-340の改訂版。

AES3-1985 に対して、民生(コンシューマ)用の場合はソニーとフィリップスの共同規格である SPDIF があります。これは AES3-1985 と同じフレーム構造を採用しており、オーディオ・データの位置が同じために、業務用機器に強引に接続しても音だけは出る場合が多いので、同じものだと思っている人が多いようです。

しかし AES/EBUSPDIF ではチャンネル・ステータス・データの使い方が全く異なるので、業務用/民生用ビット以外の情報(エンファシス情報やサンプリング周波数情報など)は正しく伝わらず、そういう意味では AES/EBU と SPDIF の間に互換性はありません。

電気的な規格も異なり、AES/EBU では専用ケーブルによるバランス伝送と規定されており、SPDIF では同軸と光ケーブルによるアンバランス伝送が規定されています。このように、このふたつは全く異なる規格と捕らえるべきです。デジタル・オーディオ・インターフェース規格には、業務用途の規格と民生用途の規格のふたつある、と理解してください。

このあたりが紛らわしいのには理由があります。1989年にIECは IEC-958 として業務用と民生用のふたつの規格を1冊にまとめて発表しました。ここから「ひとつの規格のふたつの用途」という誤解が生じるようになります。

日本のEIAJ (現在のJEITA ) ではこの IEC-958 制定の 2 年前に CP-340 という規格(内容は同等)が制定され、その後 CP-340IEC 958 を整理・統合した CP-1201を制定しました。ここでは業務用を TYPE-T、民生用を TYPE-Uとしていますが、やはり 1冊にまとまっていたために誤解を広めることになります。つまり「CP-340 / CP-1201準拠」と謳っていても、TYPE-T準拠なのか TYPE-U準拠なのかがわからないと意味がないということです。

追記:
JEITA(旧EIAJ)は、CP-1201IEC 958 (現在は IEC 60958 ) というダブル・スタンダードを解消するため、1999年に CP-1021 を廃止しています。

現在、IEC 958 は IEC 内の規格番号体系の変更に伴って IEC 60958 と呼称変更されています。デジタル・オーディオの 一般仕様として 60958-1があり、その下にリニア PCM オーディオの民生用として 60958-3、同じく業務用として 60958-4 があります。

またノンリニアPCMオーディオの規格としては 61937-1 ( General )、61937-2 ( Burst-Info.)、61937-3 ( AC-3 )、61937-4 ( MPEG-1,-2 Audio )、61937-5 ( DTS )、61937-6 ( MPEG2 AAC )、61937-7 ( ATRAC and ATRAC2/3 ) があります。これらもすべて 60958-1 の下に位置するものです。

これらの規格書は邦訳版もあり、 JSA の Web Store ( https://www.webstore.jsa.or.jp/ ) で購入することができます(ただしとても高価ですが)。


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 デジタル・オーディオ信号の構造

デジタル・オーディオ信号のフォーマットは業務用 ( AES/EBU )・民生用 ( S/PDIF ) とも上図のようになっています。このフォーマットで一番小さな単位を 『サブフレーム』 といいます。『サブフレーム』 は Ch-1 (Lーch) または Ch-2 (R-ch) のデータです。『サブフレーム』 がふたつで 『フレーム』 となり、『フレーム』 が 192個で 『ブロック』 という単位になります。

■サブフレーム
サブフレームは 32 ビットで、それぞれのビットをタイムスロットと呼んでいます。タイムスロットはそれぞれが意味をもち、次のようになっています。

タイムスロット 0〜3 : 『プリアンブル』 といって、サブフレーム、フレーム、ブロックの同期を検出するためのセクションです。プリ・アンブルはサブフレームの先頭 4 ビットにある同期用のパターンです。プリアンブルには B、W、M の3種類のパターンがあり、ブロックの最初のサブフレーム(つまり Ch-1)のプリアンブルは 『B』 です。それ以外の Ch-1 サブフレームのプリアンブルは 『M』 で、Ch-2 サブフレームのプリアンブルは常に 『W』 です。

プリアンブル以外のデータはバイフェーズマーク方式で変調されていますが、プリアンブル部分は変調されておらず、データとプリアンブルが同じようなパターンになってしまうことを避けると共に、プリアンブルの検出を容易にしています。

タイムスロット 4〜7 : 『オーディオ・オキジャリ』 といって、補助情報または拡張ワード用です。

タイムスロット 8〜27 : この 20 ビットがオーディオ・データで使用される部分です。16 ビット・データの場合は LSB 4 ビット ( 8、9、10、11)が "0000" になります。24 ビット・データの場合は、更に先程のタイムスロット 4〜7 も使います。

タイムスロット 28 : 『バリディティ(信頼性)・フラグ』 に使います。一時停止(ポーズ)やデータを補間したときなど、オーディオ・データが真の値でないときにこのフラグを立てて送り出します。受信した側がこのフラグを見てどう処理するかは任意です。

タイムスロット 29 : 『ユーザー・データ』 に使います。ここの使い方は、各カテゴリ別に仕様書に規定されています。ユーザー・データを使用しないときは "0" にします。

タイムスロット 30 : 『チャネル・ステータス』 に使います。ここにはサンプル・ワード長、プリ・エンファシス、標本化周波数、タイムコード、ソース番号、ディスティネーション・コードなどが記録されています。ここはややこしいので後で詳しく解説します。

タイムスロット 31 : 『パリティ・ビット』 に使います。タイムスロット 4 から 31 までの "0" の数と "1" の数がそれぞれ偶数になるようにします。

■フレーム
Ch-1 と Ch-2 の 『サブフレーム』 ふたつで 『フレーム』 という単位になります。『フレーム』 の長さは標本化周波数の逆数に等しくなります。つまりワード・クロック 1 周期分の時間です。1フレーム 64 ビットをワード・クロック・レートで伝送するので、「伝送スピードはサンプリング周波数の 64 倍」ということになります。

■ブロック
『フレーム』 が 192 個集まると 『ブロック』 となります。チャネル・ステータスなどはブロック単位で扱います。なお、収録されている音楽信号とブロックの区切りとの間には何の関連もありません。つまり音アタマがブロックの開始ということではありません。

■チャネル・ステータス
デジタル・オーディオ機器を扱う場合、カテゴリー・コードがどうとか、コピー禁止フラグがどうだとかよく話題になります。これらの情報はどこに入っているのでしょうか?

これらの情報はチャネル・ステータスとして含まれています。チャネル・ステータスは合計 24 バイトのデータで、細かい情報まで伝送できるようになっています。

しかし 『サブフレーム』 には 『チャネル・ステータス (C) 』 というタイムスロット(ビット)が 1 ビット分しかありません。同じフレームのサブフレームのチャネル・ステータスは原則同じなので、 1 フレーム当たり 1 ビットです。そこで、この 1 ビットを 1 ブロック分、つまり 192 ビット溜めておいて、合計 24 バイトの情報として扱っているのです。逆に言うと、1 ブロック分の時間が経過しないとチャネル・ステータスは確定しないということになります。

AES/EBU 信号を民生機に入力したり、逆に SPDIF 信号を業務用機に入力しても "とりあえず音は出る" 理由は、このフレーム構造自体が同じだからです。業務用と民生用の違いは、チャンネルステータス・データの定義が違うということです。しかしデジタル・データにとって、データ・ビットの定義の違いは大きな違いです。

それではチャネル・ステータス 24バイト(192 ビット)のそれぞれの意味をみてみましょう。


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A. 放送局スタジオ用 (AES/EBU) の場合

サブフレームのプリアンブルが 『B』 である場合、そのフレームがブロックの始まりだということは説明しました。このフレームのチャネル・ステータスが "1" だと、そのデジタル・オーディオ信号が放送局スタジオ用であることを表しています。

そこから 8 フレーム分の 『バイト 0 』 は以下の情報を表します。なおこれらは 『放送局スタジオ用』 の定義です。用途ビット "0" の民生用では全く違う定義になりますので注意してください。

バイト0
ビット0 用途
放送局スタジオ用。
ビット1 オーディオ用途の区分。
オーディオ用途
オーディオ以外の用途
ビット2〜4 オーディオ信号のエンファシス指定。
000 エンファシスなし。受信側で手動設定できる。
100 エンファシスなし。受信側では手動で設定できない。
110 エンファシス時定数 50/15μsec。受信側では手動で変更できない。
111 エンファシス特性は CCITT J.17(800Hz挿入損失 6.5dB)受信側は手動で変更できない。
その他 未規定
ビット5 ロック状態
ソースの標本化周波数はロックしている。
ソースの標本化周波数はロックしていない。
ビット6、7 標本化周波数
00 標本化周波数の指定なし。受信側では 48kHzと判断するが手動または自動でセットできる。
01 標本化周波数 48kHz。手動または自動でセットできない。
10 標本化周波数 44.1kHz。手動または自動でセットできない。
11 標本化周波数 32kHz。手動または自動でセットできない。

次の8フレーム分である 『バイト1』 は以下のとおりです。

バイト1
ビット0〜3 チャネル・モード指定
0000 モード指定なし。受信側はステレオ・モードとする。手動でも変更できる。
0001 ステレオ・モード。手動で変更できない。
0010 1チャネル・モード(モノフォニック)。手動で変更できない。
0011 プライマリ/セカンダリ・モード( Ch-1 がプライマリ)。手動で変更できない。
1111 バイト3の将来用。
その他 未規定。
ビット4〜7 ユーザービット管理用(未規定)

チャネル・ステータスを使用する場合は、このバイト0とバイト1はすべてのデータを伝送する必要があります。逆にチャネル・ステータスを使わない場合は、すべてのデータを論理 "0" にしなくてはなりません。この場合、受信した側は標本化周波数 48kHz、データ長 20ビット、エンファシス無しと認識します。

次の 『バイト2』 は、データが 24 ビット・データかどうかを示します。

バイト2
ビット0〜2 オーディオ・オキジャリ・ビットの使い方
000 オーディオ・オキジャリ・ビットの使い方の指定なし。オーディオ・サンプル・ワード長は 20 ビットである。
001 オーディオ・オキジャリ・ビットはオーディオ・データの拡張用として使う。オーディオ・サンプル・ワード長は 24 ビットである。
その他 未規定
ビット3〜7 ソースワード長とソースエンコーディングの履歴用。未規定。

その他のバイトについては以下のようになっています。

バイト3:将来のマルチ・チャネル化対応。使い方はバイト1で指定することになっています。デフォルト値は00000000です。

バイト4、5:デフォルト値は00000000です。

バイト6〜9:英数字チャネル・オリジン・データ。奇数パリティ付きの7ビット。ISO-646(ASCII)データ。

バイト10〜13:英数字チャネル・ディスティネーション・データ。奇数パリティ付きの7ビット。ISO-646(ASCII)データ。

バイト14〜17:ローカル・サンプル・アドレス・コード。レコーディング・インデックス・カウンタと同じ機能。

バイト18〜21:時間コード。

バイト22:チャネル・ステータスの情報が信頼できるかどうか識別するフラグ。

バイト23:チャネル・ステータス・データ用 CRCC。


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B. 民生用 (S/PDIF) の場合

ブロックの先頭のサブフレームのチャネル・ステータスが "0" の場合は、その信号が民生用途であることを表しています。なお、ここでは 192 ビットのうちビット 0 からビット 29 まで紹介します。

ビット0
民生用
ビット1〜5
0x000 2チャネル・オーディオ(プリエンファシス無)
0x100 2チャネル・オーディオ( 50/15μsecプリエンファシス有)
0x010 未規定(プリエンファシス有の2チャネル・オーディオ用)
0x110
0xxx1 未規定(4チャネル・データ用)
1x000 デジタル・データ
1x1xx 未規定
1xx1x
1xxx1
x0xxx 著作権保護有
x1xxx 著作権保護無

ビット2を 『著作権表示ビット』 と呼んでいます。このビットが だと著作権保護を要求されていることになります。しかし特定の用途ではこのビットだけでは著作権状態が定まらないことがあるため、カテゴリー・コードとからめて然るべき処理をしなければならない、と定められています。

次のビット6、7で、モードを決定します。現在のところ、モード0のみ規定されています。

ビット6、7 モード設定
00 モード0
その他 未規定

モード0 では、ビット8〜191はカテゴリー・コードとして次の意味を持ちます。

ビット8〜15 カテゴリ・コード
000 00000 ゼネラル。限定的に使用。
100 xxxxL 光ディスク機器
010 xxxxL デジタル/デジタル変換機器及び信号処理装置
110 xxxxL 磁気テープ機器及び磁気ディスク機器
001 xxxxL 映像信号付き又は無しのデジタル放送受信
011 1xxxL
101 xxxxL 楽器、マイク及びオリジナル信号を生成するソース
011 00xxx A/D コンバータ(著作権情報無)
011 01xxL A/D コンバータ(著作権情報有)
000 1xxxL 固体メモリ機器
000 0001L 商用に適さない実験機器
111 xxxxL 未規定
000 0xxxL 『000 00000』 及び 『000 0001L』 を除き未規定
ビット15は 『Lビット』 と呼び、「世代」 を示しています。通常は
ビット15 = "0" : 指定なし
ビット15 = "1" : 商業的に発行された録音済みソフトウエア
を示しています。上記の表の 『L』 には、ソースによって"0"または"1"が入ります。
ただし「光ディスク機器」 と 「デジタル放送受信」では意味が逆になります。
また「著作権情報の無い A/D コンバータ」と 「ゼネラル」 では世代は確定しません。

上記の表のうち、xで表したビットは更に細かいカテゴリ分けが行われていますが、ここでは割愛します。

ビット16〜19は、ソース番号を示しています。ソース番号とは、同じカテゴリの機器が複数台接続されているときに各機器に番号を付けるためのものです。

ビット16〜19 ソース番号
0000 指定なし
1000
0100
1100
    
1111 15

ビット20〜23はチャネル番号を示します。つまり L-ch か R-ch かということです。

ビット20〜23 チャネル番号
0000 指定なし
1000 ステレオ動作におけるL-ch
0100 ステレオ動作におけるR-ch
1100 未規定
1111

ビット24〜27は標本化周波数を示します。

ビット24〜27 標本化周波数
0000 44.1kHz
1000 48kHz
0100 32kHz
その他 未規定

ビット28、29はクロック精度(標本化周波数精度)を示します。

ビット28、29 クロック精度
00 標準モード レベルU
01 可変ピッチ・モード レベルV
10 高精度モード レベルT
11 未規定

この規定は送信側で付けるものなので、伝送経路などの問題で実際に送られてくる信号の精度とこのビットで示される精度が一致しない場合があります。

ビット30〜191は省略します。

SCMSについて:
民生用フォーマットでは、著作権のあるソースを無制限なコピーから守るために、SCMS ( Serial Copy Management System ) を採用しています。例えばCDからDATへのコピーは無制限にできますが、そうしてコピーされたものを更に他のDATなどへコピーすることはできません。

SCMS は、チャネル・ステータスのビット2とビット15(Lビット)、及びカテゴリー・コードの組み合わせで判断しています。ビット2が "0" であれば著作権の保護を求めていることになり、Lビットとカテゴリー・コードによって、それがオリジナルなのか複製なのかを判断しています。

◇参考文献
上記の表および解説は、主に EIAJ CP-1201 という規格書を参照しています。正確なデータが必要な場合は必ず正式な規格書で確認してください。


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 デジタル・オーディオ信号の同軸伝送 [AES3ID-1995]

AES/EBU デジタル・オーディオ信号の伝送には、専用のデジタル・ケーブルを使ってバランス(平衡)伝送しますが、このケーブルが高価で敷設にコストがかかるのと、あまり長距離を引き回せないという欠点があります。そこで 110Ω:75Ωの変換トランスを使ってインピーダンスを 75Ωに変換し、同軸ケーブルを敷設すればコストも下がるし長距離も引き回せるようになります。それに周波数も近いビデオ用のパッチベイなども使えるようになるので便利です。実際に多くのスタジオでこのようなシステムを構築しています。

しかしこの方法は何ら規格化されたものではありませんので、あくまで 『自己責任』 で運用しなくてはなりません。それに、確かに初期費用は安くつきますが、接続する機器がそのようなインターフェースをもっていなければ、接続経路の両端で再びバランスに変換してやる必要があります。

ただ、同軸ケーブルで伝送するというアイデアは、ビデオの立場からの意見として SMPTE からも AES に要望されていました。テレビ局でもデジタルVTRなどが導入されると、ビデオでもオーディオでも同軸ケーブルを使いたいし、もっと長距離を伝送したい、というわけです。

こうした話題が AESSMPTE の間で交わされ、AES ではデジタル信号をビデオ信号と同じように伝送するための規格を模索しはじめました。そうして 1995年にワーク・グループの研究発表という形で公開したのが 『AES-3ID-1995』 です。

同軸ケーブルを使うメリットとしては、ケーブル特性が明確であるので、長距離伝送時に必要な補正用のイコライザが設計しやすいことがあげられます。またビデオ信号と同じ信号レベル ( 1vp-p/75Ω)なので、ビデオ機器用のシステム、パッチベイやルーティング・スイッチャなどをビデオ・システムと共有できる点もあります。

標準規格である AES3-1992では、バランス型ケーブルを使った伝送距離は約 100mが限度でしたが、同軸ケーブルを使って適切なイコライザを設計すれば、5C-2V で約 1000m、7C-2V で 1500m、3C-2V でも約 650mの伝送が可能です。

『AES-3ID-1995』 と同じ内容で、SMPTE でも 『276M-1995, "Transmission of AES/EBU Digital Audio Signals Over Coaxial Cable"』 として制定されています。

なお、『AES-3ID-1995』 『SMPTE 276M-1995』 ではデジタル・オーディオ信号の伝送レベルがビデオ信号と同じ 1v p-pと規定されているので、単純な 110Ω:75Ω変換トランスを使ったシステムとは互換性はありません

またビデオ信号と共存するために、波形の立ち上がり・立ち下がりなどでより厳しい波形管理が求められます。信号の波形があまりに崩れていると、シビアなビデオ機器を流用することができなかったり、共通グラウンドを持ったビデオ信号にクロストークなどの悪影響を与えかねないからです。


なお Information Document である 『AES-3ID』 の内容は、正式規格である 『AES3-4-2009 附則D "Coaxial transmission"』『AES2ID-2010 附則C "Coaxial cable adapters and equalizer characterrization"』 に引き継がれたため、『AES-3ID』 自体は 2010年 7月 9日をもって撤回されました。


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 主な略称

AES : Audio Engineering Society

EBU : Europian Broadcasting Union

SMPTE : Society of Motion Pictures and Television Engineers 米国映画テレビ技術者協会

CCIR : Committee Consultative International of Radio-Communication

IEC : International Electro-Technical Commission 国際電気標準会議

EIAJ : Electronic Industries Association of Japan 日本電子機械工業会

JEITA : Japan Electronics and Information Technology industrial Association 電子情報技術産業協会

(社内セミナー資料より)

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